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第2回東方最萌トーナメント。
何処で行われているのか、誰が行っているのか、何故行われているのか。
全てが謎に包まれたこの戦い。
だが、戦いが行われているというのは厳然たる事実である。
昨日の友も今日の敵。主従であれど運命の悪戯如何によっては潰し合わねばならない。
本日の組み合わせは『紅魔館の門番 紅美鈴』VS『白玉楼の庭師 魂魄妖夢』。

さて、ここではその紅美鈴にスポットを当ててみよう。
紅魔館の中に存在する、広大にして巨大な空間、魔法図書館。その一角、僅かに存在する魔法の灯りすら届かない片隅で、膝を抱えすすり泣く人物が一人。
「何度も言っているけどね……余所でやってもらえるかしら」
虚空に主であるパチュリーの声が響く。それに蹲る人影はびくりと震えるものの、それでも動こうとはしない。
その人影こそ、本日の主役の一人紅美鈴。館の名と同じ紅い髪も艶やかな、長身の美女であるが、今の様子はむしろ小動物のそれ。
「……はあ」
遥か離れた場所、図書館の中心(物理的な意味ではなく、概念的な意味でだ。彼女のいるところが、すなわち図書館なのだから)でパチュリーはため息を吐いた。パチュリーは館の主、レミリア・スカーレットの友人である、客人なのだ。無論立場は美鈴よりも上だし、特にここ図書館はレミリアに許されて構築されたパチュリーの領域。そこに無許可で居座った上に退去勧告に従わないのだから、いつもならばスペルカードの一つでも使って追い出しているところなのだが(もっとも、美鈴は普段そんなことはしない。『無許可で居座った上に退去勧告に従わない』相手に対しては、スペルカードで追い出しを図るということである)。
「まあ、気持ちはわからないでもないけれど」
この第2回東方最萌トーナメント、なんと稀代の大魔女であるパチュリーは初戦で敗退してしまっていたのだ。その時の対戦相手はアリス・マーガトロイド。メタな説明になるが、妖々夢三面ボスとして再登場し、その後永夜抄では魔理沙と組み、萃夢想にも登場した常連、いや既に準主役とまで言っても過言ではないだろう。それを相手に、紅魔郷四面ボス&EX中ボスであり、その後もエンディングなどでちょこちょこ顔を見せ、萃夢想で完全復帰を果たしたパチュリーですら破れたのである。
そして美鈴の相手は魂魄妖夢。妖々夢五面ボス&六面中ボスにして永夜抄では自機デビュー。そして萃夢想では本来の剣術の冴えを魅せた少女だ。この対戦、パチュリーVSアリス戦のそれと似ていると言えば、似ている。
自分が敗北した手前、弱気になる美鈴の気持ちが少しだけだが、わかるのだ。それゆえに注意に留め、追い出すことをしていない。実際美鈴が紛れていたところで白黒のネズミと違い書物を持ち出すでもなし、実害はないのだから。
「何甘っちょろいことを言っているの、パチェ!」
ばばーんと、派手な音を立てて図書館の扉が開いた。同時に響く幼い少女の声と、
「ぱちぇー!」
それを真似するさらに幼げな少女の声。
気だるげにそちらに視線を向ければ、
「門番は無能の代名詞、なんて言っていた貴女らしくないじゃない」
両手を妙な形で掲げた少女と、その後ろにメイド服を纏った女性に抱きかかえられた金髪の少女の姿があった。
「珍しいわね、レミィ。貴女の方からここに来るなんて」
「美鈴がここにいると聞いたから。出てきなさい、美鈴!!」
一喝する彼女こそこの館の主、数多い闇の眷属の中でも、なお超越者である幼きデーモンロード、レミリア・スカーレット。
「お、おじょうさま!? な、なんでここに!?」
怯えた美鈴の声が図書館の彼方から木霊する。パチュリーの意思一つで彼女はこの場に姿を現すのだが、本人の意思を尊重しようとしているのか、はたまた面倒なだけなのか、とりあえずパチュリーは深々と椅子に座ったまま友人の様子を眺めている。
「出てきなさい、と言ったわ。命令よ。従わないなら、フランと遊んでもらうよ」
「めーりんと遊べるの!?」
「もう少しお待ちください、フランドール様」
瞳を輝かせる金髪の少女――レミリアの妹である、フランドール・スカーレットだ。頑丈な美鈴が最近のお気に入りのようで、暇さえあれば美鈴の側にべったり張り付いている。ただ遊ぶだけならともかく、何時弾幕ごっこになるかわからないため、美鈴としてはひやひやものなのだが、それはまた別の話――に、メイド服姿の女性が優しく応える。勿論、そのメイド服姿の女性とは紅魔館唯一の人間にしてメイド長である十六夜咲夜に他ならない。
「うう、それだけはご勘弁を……」
フランドールに聞こえないように呟きながら、美鈴がのろのろと姿を現す。美鈴とて別にフランドールを嫌っているわけではないし、むしろ無邪気に慕ってくれるのは嬉しくもあるのだが、能力的には鼠が虎に懐かれているようなものである、これは美鈴でなくても怖い。
「で。貴女はこんなところで何をしているの美鈴?」
「な、なにと言われましてもー……」
自分の胸ほどの背丈の少女に睨まれ、美鈴は小さくなる。如何に見た目がロリっ娘だろうと、重ねてきた歳月は滲み出る。その視線の前では、美鈴など小さくなる以外道はないだろう。
「貴女の相手は誰?」
「こ、魂魄妖夢さんです……」
「そう。魂魄妖夢。あの、ぼーっとした亡霊の側仕えね」
レミリアから真紅のオーラが立ち上る。それはもう、今すぐにでも弾幕ごっこを始めようかと言うくらい。むしろ初手からクイーンオブミッドナイトってくらいに。
「ねえ美鈴、貴女は誰?」
「は、はいっ。紅魔館門番、紅美鈴ですっ」
「対戦相手は?」
「こ、魂魄妖夢さんです……」
「その魂魄妖夢は何処の何かしら?」
「は、はいっ。白玉楼の主西行寺幽々子様の側仕えで、庭師ですっ」
「そう。あの、ぼーっとした亡霊の側仕えね」
なんだか会話がループしていた。
「ねえ美鈴、まさか……まさか、とは思うけど、私に仕える者である貴女が、あの亡霊の側仕えに負けたりなんて……しないわね?」
「で、ででででもっ、最萌トーナメントなんですよっ、さ・い・も・え! 私なんかが、どうやってあの萌っ子に勝てばいいんですか!?」
あまりのプレッシャーに、思わず反論してしまう。いつもならば、反射的に頷くだけだっただろうが、プレッシャーをかけすぎたのが仇となったか。
「それは……なに? 私が、あの亡霊より萌えないって言いたいの?」
そう、レミリアがここまで美鈴をけしかけるのには勿論理由があった。
何を隠そうレミリアは、彼女の言うところの亡霊、西行寺幽々子との直接対決において敗北を喫しているのだ。共に六面……すなわちラストステージのボスであり、永夜抄、萃夢想と続けて登場を果たした二人、条件はまったく五分……いや、前回やはり直接対決において敗北し、今回は勝てばフランドールとの姉妹対決という夢のカードを控えていたレミリアの方が状況的にはむしろ有利であっただろう。にもかかわらず、敗北。
「め、滅相もありませんっ〜!」
「……まあ、いいわ。とにかく、紅魔館の門番を務める以上、貴女に負けは許されないのよ、美鈴」
「で、ですがお嬢様。相手は強敵です。ちっちゃくて可愛らしいですし、それでいながら剣士として鋭い一面もあり……そのくせ斬ればなんでも済むと思ってるようなお馬鹿なところもある上に、『みょん』などという可愛い言葉まで装備……! 自分で言うのは悔しいですけれど、『中国』呼ばわりだけの私が、どうやってこの萌えの物量に対抗すれば……!」
美鈴の必死の訴えを、
「脱ぎなさい」
レミリアは、一言で切り捨てた。
「え?」
「……貴女の気を操る能力は煌いていて綺麗よ。それに、テーマ曲だって華麗だし、なにより『上海アリス』の名を戴いている……貴女が思っているよりも、貴女の萌え力は強い。でもね」
ずびっと美鈴の胸を指差し、
「貴女の最大の武器はその胸! 今でこそ薬師やワーハクタクがいるけれど、それでもこの東方一のナイスバディ(死語)は貴女なのよ、美鈴!」
「え、え? ええーっ?」
「それをアピールせずに、なにをアピールするって言うの」
くるりと返した手の平が、美鈴の豊満なバストをむにゅっと鷲掴みにする。
「ひゃっ、お、おじょうさまっ!?」
「む。なによこれ、なにをどうしたらこんな感触になるの?」
むにゅむにゅとレミリアが好き放題に指先を動かし、柔らかな双丘をこねくりまわす。
「ひゃん! や。だ、だめですおじょぉさまぁ……」
「ねえ咲夜」
その光景を見ていたフランドールが、自分を抱きかかえる咲夜の胸をふにふにと触り、
「咲夜の胸も柔らかいけど、美鈴の胸ってそんなに柔らかいの?」
「そうですね」
咲夜は少し考えるような素振りを見せ――その間にも美鈴の嬌声は図書館に響いているのだが――、フランドールを床に降ろした。
「ご自分でお確かめになってはいかがでしょう?」
「んー……うん、そうするわね」
ぱさりと、硬質な翼がはためきフランドールが宙に舞う。
そのままふわふわと飛んだフランドールは、美鈴の後ろに回り込み、
「えいっ」
「はにゃあっ! ひゃん、い、妹様っ!? だ、だめです、やん、そんなにぃ……」
頬を上気させ、蕩けた声をあげる美鈴を冷ややかに見ながら、
「本来の目的見失ってない……?」
呟くパチュリー。そんな日陰の智者へと何時の間に用意したのやら珈琲を差し出して咲夜は微笑む。
「まあ……あれが美鈴の魅力なんですよ、パチュリー様」
「……ま、確かにね」
あれはあれで愛されているのだろう。
もし勝てたなら、「よくやったわね」くらいは言ってやろう。静かにそう思いながら、パチュリーは苦い珈琲を口にした。

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