※このSSは『StrikerSサウンドステージX』発売前に書かれたものであり、
キャラクターの状況や使用魔法が公式と異なる場合があります。ご了承ください。


新暦0077年9月10日。時空管理局所属、XV級艦船クラウディア。

「ん……」
久しく聞かなかった着信音に、ティアナ・ランスターはタイを緩める手を止めた。ティアナがほとんど私物を持ち込まない為、クラウディア艦内に用意された私室には備え付けの家具だけ。シンプルなベッドに腰を下ろしながら、相棒――インテリジェントデバイス、クロスミラージュ――に組み込まれた通信機能をオンにする。
『ティア! 久しぶり、元気だった?』
小さな空間モニターに大映りになる、見慣れた満面の笑顔。自然と浮かぶ穏やかな微笑を、意識して少しばかり意地悪なものに変えつつ、
「毎日のようにメールしておいて、久しぶりもないもんだけどね、元気よ。あんたは……聞くまでもないか」
『うんっ、ばっちり元気!』
辞書の参考写真にしても恥ずかしくないような見事なガッツポーズを取る少女は、ティアナより一歳年下で、もう5年の付き合いになる。
長く伸ばしたティアナの明るい赤毛とは対照的な、短く整えた濃い色の髪に紺碧の瞳。朝から晩まで一緒だった時よりは随分と大人びてはいるが、やはりまだまだ少女の印象を出ない。
「……スバル、本当にあんた変わらないわねえ」
思わずそんな言葉が、ティアナの口からぽろっと出た。
『ひ、ひどいよティアー、そりゃティアは髪下ろしたり、なんか急に大人っぽくなっちゃったけどさ、あたしだって色々変わってるんだよ!? 胸だっておっきくなったし!』
「なにいきなり口走ってるんだか……ちょっと映像切るわよ。今部屋戻ったとこで、まだ制服なのよ」
『あ……ごめん、かけ直した方がいいかな』
「いいわよ、別に。それで、どうしたの一体。まあ、メールはともかく通信は久しぶりだし、単に話したかっただけ?」
『あ、うん。ちょっとお願いと言うか、お誘いと言うか……とりあえずティアが着替え終わってから話す』
「そう?」
緩めかけていたタイを解き、襟から抜く。ダークブルーの制服は皺になり易いので、きっちり脱いでハンガーにかけてクローゼットへ。その間にも会話は途切れることなく続いた。最近仕事どう? とティアナが聞けば、大きな事故も無いし概ね平和、とスバルが返す。
『ティアの方はどう? 大きな事件が片付いたってこの間のメールに書いてあったけど』
「ああ、うん。詳しくは言えないけど、フェイトさんが捜査協力してた事件が一段落して……ほら、ニュースでも結構大きく取り上げてたと思うんだけど、質量兵器の密造密輸組織の件」
ティアナの言葉に、スバルはしばらく首を捻り、
『あ、思い出した! 先週だっけ。なんか大きな取引を摘発したって、ニュースで見たよ』
「それそれ。大規模捜査だけに、管轄外のフェイトさんにも協力要請が来てたってわけ。ここしばらくはそっちをメインに動いてたから、今はちょっと一息つける感じね。ちょっと経ったらまた忙しくなると思うけど」
ラフな部屋着へと着替えが終わる。髪をまとめながら、映像機能をオン。
『あ、いつものティアだ』
「なによそれ――ま、いいわ。で、お願いだかお誘いだかって言うのは?」
『えっとね、いきなりなんだけど……旅行、行かない?』
「…………」
『あれ? ええと、ティアー?』
「…………」
『えっと……もしもーし、聞こえてるー? ……ねえマッハキャリバー、通信の様子おかしくない?』
「……いや、あんまりに唐突で絶句しただけだから」
『えー? そんな固まって驚くほどのことかな』
「呆れたのよ。久しぶりに遊びに行こう、とかならわかるけど、なんでまたいきなり旅行なの」
『なんでーって、特に理由はないんだけどさ。六課解散してからもう結構経つでしょ? 皆それぞれの職場にも慣れてきただろうし、どうせ休暇も取らずに仕事ばっかりしてるんだろうし――って、へへ、父さんが』
「ナカジマ三佐が?」
『うん。お前らは若いせいか休み方ってもんを知らねえな、って呆れてた。それでね、父さんの知り合いが旅館やってるの。口利いてやるから、休暇取って行ってきたらどうだ、って言ってくれてさ。あたしも久しぶりにティアと会いたいし……どうかな』
「旅行、ねえ……」
スバルの提案に、ティアナは少し唇を尖らせて思案した。机の端末を操作してスケジュールを呼び出す。
ぎっちりと予定で埋まっていた先週までとは違い今後の欄にはかなりの空白があり、何か書き込まれているところもティアナ一人で片付ける仕事で、かつ急ぎのものではない。
「フェイトさんに相談してみないことにはわからないけど……まあ、休めないこともないわね。そっちはどうなの?」
『あたしは平気。と言うか、多分ティアが一番融通利かないと思うから、ティアの休みに合わせようかと思って』
「一番って……あたしとあんたで行くんじゃないの?」
『え? あ、うん、せっかくだから元六課のメンバー誘えるだけ誘ってみようかと思って』
「それはまた随分と大掛かりね――まあ、確かに連絡は取ってても、解散以来顔合わせてない人も結構いるし、いいんじゃない? 同窓会みたいで楽しそうだわ」
ティアナの言葉に、スバルが破顔する。
『うんっ、きっと楽しいよ!』
つられてティアナも笑った。
『他の皆にも伝えたいから、今日はこれで切るね。お休みの予定、早めに教えて』
「ん。後になるほど動きにくくなるから、これから聞いて寝る前にはメールしとくわ」
『うん。それじゃあティア、お休み!』
「おやすみ」
投影された空間モニターが消える。
「……旅行か」
呟くティアナの口元は笑みを形作っていた。

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