「うわ」
 突然視界に入ってきた威容に、士郎は思わず目を丸くする。
「す、すごーい! こんなところにお城が……」
「へえ。悪くなさそうね」
「……無駄な労力を使ったもんね」
 士郎同様初見であった凛達も、三者三様の反応だ。
 郊外へ車で約一時間。訝しむタクシーの運転手を凛がさらりと言いくるめて、下車から歩くこと五時間あまり。何度か休憩を挟んだものの、いい加減疲労が隠せなくなってきた士郎達――ちなみにイリヤは後ろから抱きついたバーサーカーが飛んでくれているのでまったく歩いていない――の前に突如現れたのは、中世――いや、まるでおとぎ話の世界から切り取ってきたかのような、絢爛な城だった。
「ありがとうバーサーカー、ちょっと下ろして」
 バーサーカーがイリヤの細い身体に回していた手を離す。それほどの高度を取っていたわけではなく、地面すれすれに飛んでいた為問題は無い。大地はイリヤの重さをやわらかく受け止めた。
 城の方を向いて着地する形になったイリヤはくるりと振り向き、ちょこんとスカートを摘み上げようとして、
「むむ」
 ちょっと困り顔になった。高価な素材で縫われていると思わしきイリヤの服を他の衣服と一緒くたに洗濯機へ放り込んで洗うわけにもいかず、昨日着ていた服は出掛けにクリーニング店へと預けてしまっている。今イリヤが着ているのは士郎が小さな頃に着ていたものだ。ごく普通のジーンズとトレーナーで、はっきり言ってしまえばイリヤにはさっぱり似合っていない。
 しばらく悩んだ末、結局イリヤは仕草だけでもよしとしたらしい。架空のスカートを摘み上げ、朝起きた時士郎に見せたような、レディーの礼。
「ようこそ、我が城へ――お呼びじゃないお客様もいるけどね」
 言いながら、少し意地悪な笑みを浮かべて凛を一瞥する。興味ないとばかりに視線を逸らす凛の様子に満足げに目を細め、
「セラ、リズ、帰ったわ」
 小さな呟き。士郎達にすら聞こえるか否か、と言った程度の声で一体何が、と首を傾げる間もない。
 細緻な装飾が施された、城の規模に相応しい巨大な門扉がその大きさに不似合いなとんでもない速度で開き、中から現れた人物に士郎と凛は目を丸くする。
 ナイチンゲールじみた白装束。ぱっと見ただけでは区別がつかない、鏡に映したような二人の少女。
「お嬢様! 外泊などなされて……! そ、その格好は一体!?」
 出てくるなり悲鳴をあげたのは、胸元から覗くアンダーウェアが青色の少女だ。走ってきたからか、頬を僅かに朱に染め荒い息を吐いている。
「イリヤ……珍しい」
 対してアンダーウェアが黒色の少女は息を乱す様子もなく、まったく素の表情で士郎のおさがりを纏ったイリヤを見ていた。
「ええと、イリヤ、この二人は……?」
 面食らった士郎が問うと、イリヤは小首を傾げると、
「ん? メイドだよ? 見てわからないの、お兄ちゃん」
「……いや、普通はわからないと思う」
 所謂メイド服、といった服装ではないし、見かけだけで言えばどちらかと言うと最初の印象通り看護婦の類に見える。
「あ、やっぱりメイドさんだったんですか」
 と、せっかくの士郎の主張を台無しにするようなコメントをぽろりと漏らしたのはアーチャーだった。なんでわかるのさ、と疑問符が貼り付いた顔をアーチャーへ向けると、なんでも友達の家にもメイドがいて、なんとなく似た雰囲気を感じたとかなんとか。
「……お嬢様、そちらの方々は?」
 訝しげな視線が士郎達に向けられる。平然とバーサーカーを見せているところを見るに、このメイド達は聖杯戦争のことも既知なのだろう。見るからに普通の小学生なアーチャーだけならともかく、翼を隠そうともしないランサーが一緒にいては士郎や凛がマスターだと感づく。戦うでもなく他のマスターを本拠に連れてくれば怪しむのも無理は無い。
「お兄ちゃんとバーサーカーのお姉様、ランサーよ。あとオマケの凛とアーチャー」
「……オニイチャン?」
 胸元が黒いメイドがひよこのように、くっと首を傾げる。
 奇妙な発言で紡がれた"お兄ちゃん"という言葉に、青いメイドがはっと顔を青ざめさせた。
「まさか――エミヤキリツグの」
「――キリツグ」
 途端、黒いメイドの乏しい表情も曇ってしまう。
 その態度に、士郎もまた顔を曇らせた。詳しいことはわからないが、アインツベルンとの関係を想像するに、切嗣を知っているらしいこのメイド達が士郎に対してもよくない顔をするのは当然だ。そんな感情を抱かせてしまうことに、勿論士郎に責任はないのだが、それでも切嗣亡き今息子である士郎が申し訳なく思うのは当たり前と言える。
 何か言うべきなのかもしれない。だが何を言えばいいのか。言いよどむ士郎と、やはり何か言いたいことがあるのか口を開こうと悩む青いメイド。
 そこに割って入ったのは、
「セラ、リズ。わたしのお客様に何か問題が?」
 イリヤの少し冷たい口調の声だった。
「お嬢様……いえ、失礼いたしました。――ようこそ皆様、アインツベルの城へ」
 流石職業意識がしっかりしているらしく、青いメイドは感情を見せない声で士郎達に礼をする。
「……いらっしゃい」
 対して黒いメイドの方は渋々――と言った調子でもないが、妙に素っ気無い態度。だが不思議なことにイリヤはそれを叱るでもなく、士郎の手を引っ張り、
「ね、お兄ちゃん。サロンでお話しよ! リズ、お茶をお願いね、それとバーサーカーがお腹すかせてるから食事の用意をしてあげて。セラ、お客様のおもてなしは任せるわ」
「……うん」
「……畏まりました、お嬢様」
「わ、い、イリヤ!?」
 メイド達が頷くのも見ずに、イリヤは駆け出す。凛が制止の声をあげるも、勿論無視だ。
 士郎がその気になれば引き止められないはずもないが、楽しげなイリヤを見てそんなことが出来るはずもなく、あとで凛からきっちりお叱りを受けるだろうと内心がっくりしつつも、イリヤに引かれるまま豪奢な城の廊下を歩いていく。
「それにしても……凄いな」
 思わず口から、そんな感嘆の声が漏れる。
 士郎の家も世間の平均からすれば相当大きいが、内装そのものは大したことはない。しかも家が大きくても部屋の一つ一つはさして大きくない上に、士郎が普段使うのは自室と土蔵、道場に居間、加えて台所といった生活に必須な場所だけだ。広いと言うことは自覚しても、豪華だという印象は微塵もない。小さくてももっと凝った内装の家はいくらでもあるだろう。
 そんな中を進む何処からどう見ても100%庶民な士郎。違和感全開だった。もっとも、普段なら違うのだろうが今は士郎のおさがりを着ているイリヤも城の内装からは相当浮いている。
 イリヤの先導で辿り着いたサロンもまた、廊下同様豪奢なものだった。勧められた椅子に座るが、座り心地がよすぎてかえって居心地が悪い。
 イリヤは、と言えばホストの席ではなく士郎の隣に陣取り、座りが悪そうにしている士郎を楽しげに眺めている。
「リズがお茶を淹れてくるから。そしたらお話しよ、お兄ちゃん」
「お話と言われてもな……公園で会った時も言ったけど、お喋りなんかあまりしないからなぁ」
 しかも無趣味に近い士郎である。唯一の趣味と言えるようなものは料理だが、同じ料理をする身ならともかく見るからにお嬢様なイリヤ相手に旬の素材の下拵えの仕方、など語っても面白く無いだろう。
 とは言え、こうして慕ってくれているらしいイリヤの願いを無碍にも出来ない。話の糸口を探すことしばし、
「……あー、やっぱりイリヤはお嬢様なんだな。メイドさんなんて、初めて見たぞ」
 メイドさんではなく家政婦さんなら実は結構見慣れてたりするのだが。家政婦とメイドはニアリーイコールで結べそうでありながら、それぞれ独立した存在でありごっちゃにしたりすると時に死を招きかねないほど危険なのである。
 それに何と言ってもメイドさんという言葉の響きは家政婦さんとは一線を画す。いやまあ家政婦さんもそれはそれで、という感じなのだろうが、士郎にとって家政婦さんと言ったら大河の家に沢山居るおばちゃん達であり、二時間サスペンスでこっそり見てる素人探偵という感が強い。
「そうなの? お城にはいっぱい居たけど」
「……いっぱい」
 あのナイチンゲール風なメイドがずらりと並んでいるところを想像してしまい、士郎はくらりとする頭をおさえる。
「でもお城のメイドと違って、リズとセラはメイドのクセに口うるさいの」
「へえ……メイドさんって言っても、教育係も兼ねてるみたいな感じなのか? でもイリヤは礼儀正しいし、あまりお小言言われたりはしないんじゃないのか?」
 イリヤは小さいながらも淑女レディーであろうとしている。確かにいきなり抱きついたりと子供らしい甘えが見えもするが。
「ええ、確かに礼儀作法でどうこう言われることはないわ。でも外に出るなだの、特にシロウとは会うなだの……メイドなんだから身の回りの世話だけしてればいいのに」
 などと口を尖らせて言うものの、そこに嫌悪の色は無い。なんだかんだでメイドのことは気に入っているらしい、と微笑ましく思うと同時に、自分に会うな、と言う言葉は士郎の悩みを深めていく。だが悩みだす前に、
「でもイリヤ、外は寒いから身体によくない」
「うわっ!?」
 突然背後からの淡々とした声。
 思わず椅子から跳び上がり、振り返って見たその先には、
「……お茶、淹れてきた」
 銀のお盆を手に、佇んでいるメイドさん。
 音も無く給仕されるカップからはティーパックくらいしか使わない士郎でもわかるほど芳しい香りを漂わせている。
 イリヤは当然、という顔で給仕されているが、一般庶民である士郎がメイドさんに給仕されてどーんと構えていられるわけもなく、
「あ……どうも」
 お礼を言いながら下げた頭を上げれば、待っていたのは自分をじっと眺める無感情な瞳。見慣れぬ格好の、しかもかなり整った顔立ちの少女にじっと見つめられれば、士郎でなくてもたじろぐだろう。まして相手はアインツベルンのメイドであり、紹介されたときの反応を見るに切嗣を知っていることは確実なのだ。
「…………」
 すい、とメイドの視線が士郎からイリヤへ移る。
 イリヤは笑顔だ。
「……イリヤ」
 硬質な、だがけして冷たくは無い声が少女の名を紡ぐ。
 小首をかしげるイリヤに、メイドは問う。
「楽しい?」
「――ええ。とっても」
 応えるイリヤは満面の笑顔だ。メイドはその笑顔に、乏しい表情に僅かながら喜びの色を浮かべ、
「――そう」
 頷き、再び士郎へ向き直る。
「イリヤを、よろしく」
 相変わらず感情の見えない声。だがその声にどれだけ切実な想いが込められているのか。それを察せぬほど士郎も馬鹿ではなかった。
 しばし迷い、
「……俺に何が出来るかわからないけど、わかった」
 言葉を紡ぐ。イリヤと士郎の関係は複雑だ。何をすればいいのか、何を言えばいいのか。士郎の立場では何を言っても、何をしてもあるいは偽善の行為に、選ばれた者の驕りに取られてしまうかもしれない。
 それでも、士郎はこの妖精のような少女に、何かを伝えたかった。それがなんなのか、形に出来ていないのが厄介ではあるのだが。
 そんなあやふやな士郎の答えだが、メイドはどうやら納得したらしく、気持ち満足げに頷くと再び音も無く退室していく。
「ふふ、お兄ちゃんったらおっかしーい。なんでそんなにカチコチになっちゃってるの?」
「いや……俺は一般庶民だから。メイドさんなんかに給仕されたら、そりゃ緊張もするよ。ええと、今のメイドさんが、リズさん?」
「リズサン、じゃなくて、リズよ。リーゼリットだから、リズ」
「へえ、イリヤみたいに愛称だったのか」
「セラは怒るけどね。リズが私をイリヤって呼ぶの」
「セラってのは……もう一人のメイドさんか。イリヤはメイドさん二人とここに?」
「ええ。そう長い期間いるわけじゃないし、ぞろぞろ連れてきても邪魔でしょう?」
「そっか、イリヤは聖杯戦争の為に冬木に来たんだもんな……なあ、イリヤ」
「なあに、お兄ちゃん」
 無邪気に首を傾げ、士郎を見上げるイリヤ。
 何故か無条件の信頼が篭った眼差し。迷いながら、士郎は口を開く。
「聖杯戦争が終わったら、イリヤはどうするんだ? ああ、いや――イリヤの願いって、なんだ?」
「願い? 願いなんて、ないよ」
「なん、だって?」
 無邪気な笑顔のまま、信じられないような言葉を紡ぐイリヤに、士郎は愕然とする。
「わたしはアインツベルンのマスターなんだから、聖杯を手に入れるのは当たり前だもん。願いがどうとか関係ないわ」
「ちょ、ちょっと待てイリヤ。じゃあ、なんで戦うんだ」
「――? ヘンなこと聞くのね、お兄ちゃん。マスターは他のマスターを皆殺しにして、聖杯を手に入れるものでしょう?」
「ッ! 違う! マスターだから、なんて理由で殺し合いなんてしていいはずがあるかッ!」
 そんな理不尽な理由で、命の取り合いをしていい道理は無い。あまりにも一般的な意見であると同時に、士郎にとってそれは行動原理にも等しい。養父に救われるまで取り残された、理不尽に消えゆく命を見ることしか出来なかったあの赤い世界は、今でも心の奥底に刻み込まれている。
「――お兄、ちゃん?」
「ぁ――」
 激情に身を任せ、思わず立ち上がっていた士郎を、イリヤの呆然とした瞳が見ている。
「……悪いイリヤ、怒鳴ったりして」
 乱暴な動きで倒してしまった椅子を直す為に、士郎はイリヤから視線を外したが、それはあまりにも不誠実だ。深呼吸を一つ、先程までの豪華なテーブルへ向いていた位置から、イリヤと向き合えるように椅子を置いて腰をおろす。
「……う」
 改めてイリヤへ向き直り、士郎は思わずたじろいだ。
 幼い柔らかな頬がぷくーっと膨れ、怒鳴られて吃驚したか可愛く士郎を睨む瞳は涙ぐんでいる。申し訳ないやら、ばつが悪いやらで、どう切り出したものか迷う。
「……イリヤ。マスターだから、なんて理由で簡単に殺すとか言っちゃ、ダメだ」
「なんで? それが聖杯戦争でしょ?」
「それは――だからイリヤ、こんな馬鹿げた殺し合いなんて、そもそも参加する必要はないだろ。願いが無いならなおさらだ。マスターなんて、やめるんだ」
「無理よ。言ったでしょ、わたしはアインツベルのマスターなの。イリヤは他のマスターを殺して、聖杯を持ち帰らなきゃいけないの。お爺さまの言いつけだもの」
 無邪気な口調が、事も無げに命を奪うと宣言している。自分が狙われているということを考えから外しても、その言葉はイリヤの可憐な容姿にはあまりにも不似合いだ。
「待てイリヤ。それじゃ、お爺さまってヤツの言いなりじゃないか。自分の意思でマスターになってるわけじゃないだろ」
「んー……でもわたしは生まれた時からマスターだったよ? だから戦うのは当たり前なんだって」
「――それは違う。自分の意思ならともかく、人の言いなりになって戦うなんて間違ってる。止めるんだ、イリヤ」
 じっと二人の視線が絡まる。
「本気で言ってるの、お兄ちゃん?」
「当たり前だ」
「……ふぅん、命乞いしてるワケでもないみたいだし、本気でわたしのコト心配してるんだ」
 なにやら意地悪そうに、小悪魔めいた笑いを浮かべる。幼い癖に、妙に妖艶な笑いに僅かに赤面するが、視線は逸らさない。
「それも当たり前。イリヤみたいな子が戦うのはイヤなんだ。出来るならマスターを辞めて大人しくしてて欲しい」
「――そっか。えっとね、それならシロウがわたしのサーヴァントになるなら、やめてあげてもいいよ? シロウを殺す必要もなくなるし、一石二鳥だもん」
「な……! ば、ばかっ、なに言ってるんだおまえ! サーヴァントになるって意味わかんないし、大体戦いを止めろって言ってるのにさらにサーヴァントを欲しがるヤツがいるかっ。俺までイリヤの使い魔になってどうするんだよっ」
「使い魔? そんなのにはならなくていいよ。シロウにはサーヴァントになってほしいの。戦う必要なんてないわ」
「だからサーヴァントって――え?」
 どうも話がすれ違っている気がしてきた。反射的に言い返すのをやめて、士郎はイリヤの言葉を頭の中で反復する。
「……なあイリヤ、ちょっと訊くけど、サーヴァントってなんだ」
「わたしのものなんでしょ? いつも側にいてくれて、イリヤを守ってくれる人だってお爺さまは言ってたよ?」
「――む」
 やはりと言おうか、士郎や凛、そしてセイバー達サーヴァント自身が認識しているサーヴァントの定義とイリヤのそれは大分ずれている。イリヤのサーヴァントとして召喚されたのが、幼い上にどこかオカシイバーサーカーだったのも災いして、今の今までその認識のズレは誰にも指摘されていないらしい。
「……そうか。でもイリヤ、それってなれって言われてなるようなもんじゃないんじゃないか?」
「どうして? シロウ、わたしじゃ不服だって言うの……?」
「いや、不服とかそういう問題じゃなくて……大体イリヤ、いつも側にいて守ってくれるって――」

 ――それじゃまるで家族じゃないか――

 口から出かけた言葉を、士郎は咄嗟のところで飲み込んだ。
 それは、簡単に口にしていい言葉ではない。そして同時に、その願いを受け入れないと言うことはどういうことなのか、気づいてしまった。
「…………」
 士郎をサーヴァントにしたい。それはつまり、酷く容易く理解できる望みなのだ。
「お兄ちゃん……? やっぱり、イリヤじゃ嫌……?」
 沈黙の士郎に不安を感じたのか、イリヤの声が震えていた。
「……そういうわけじゃない。けど、それは……」
 イリヤが望んでいるとは言え、簡単に決断できることではない。
 肯定も否定も出来ないでいる士郎を見つめるイリヤの不安げな瞳。それが、唐突に攻撃的な色を帯びた。
「……イリヤ?」
「……驚いた。一度やっつけたのに、わざわざアインツベルンわたしの領地に踏み込んでくるなんて」
 剣呑な調子に、士郎も身体を緊張させる。イリヤの言葉が意味する所、それは――
「まさか――ライダーか!?」
「ええ。あ、お兄ちゃんは座ってていいよ。ここはわたしのお城で、お兄ちゃん達はお客様だもの。招かれざる客を追い返すのは、ホストの役目でしょう?」
「いや、協力するって決めただろ。俺達も一緒に戦うよ、遠坂達と合流しよう」
 まあ、セイバーのいない士郎は戦闘の役には立たないが、少なくとも慎二の説得くらいは出来るだろう。口には出さなかったが、イリヤ一人に任せてはマスターである慎二が殺されてしまう可能性がある。
 サロンを出て行こうとするイリヤに追いつこうと、立ち上がって早足に歩く士郎だったが、
「わ、っと。どうしたんだ、イリヤ」
 廊下に出た途端何故か立ち尽くしているイリヤにぶつかってしまった。少女の小柄な身体がぐらりと揺れ、士郎は慌てて肩を掴んで転ばないように支えてやる。
「――嘘。なんなの、この速度と魔力。まるで別物じゃない……!」
 呟きが悲鳴じみたものに変化すると同時に、
「っ!? な、なんだ――!?」
 城を、轟音と振動が襲った。

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