「……小僧。汝、少しは落ち着いてはどうだ?」
 キャスターがそう呆れ顔になるのも無理は無い。先程から士郎は玄関と居間を往復し、座ったり立ったり傍で見ていると鬱陶しいことこの上ない。言われ、立ち上がりかけた士郎は頭をかきながら腰を下ろす。
「いや……そう言われても」
「汝が慌てていても小娘が帰ってくるわけではあるまい。信じているのなら、どっしりと構えていればよかろう」
「……わかってる」
 勿論凛のことは信じているし、キャスターの言うことがもっともなのもわかっているのだが、それでもじっと待っているのは苦痛だ。
 思わず口を挟んだキャスターだったが、一応座りはしたものの相変わらず落ち着かない様子の士郎を見て、苦笑いしつつ、
「気持ちは、わからんでもないがな」
 そんな言葉を口にする。とは言え、キャスターは常に主と共に死線を駆け抜けてきた魔導書。その身で待つ者の気持ちがわかる、などとは形式上の慰めに過ぎない。
 しばらくはじっとしていた士郎だが、10分も経たないうちにやはりまたそわそわしだし、結局立ち上がってしまう。
「……悪い、キャスター。やっぱりじっとしてると落ち着かない。みんなの様子を見てくるよ」
「好きにするがよい」
 積極的に邪魔に思うほどでもないが、キャスターとしても目の前で落ち着かない様子を見せられるよりはどこか他所へ行ってもらった方がありがたい。魔術師キャスターとしての役割を振られているとは言え、彼女は本質的には外道と戦うことを宿命づけられた戦士である。戦いの中の、動きようの無い時間の使い方も心得ているのだ。
 不動の葛木にも一応声をかけて、士郎は再び立ち上がった。先程までとは違い、玄関ではなく少女サーヴァント達が休む客間を目指す。凛のことも気になるが、それ以上に桜とイリヤのことがぐるぐると頭を回っていた。
「……士郎さん?」
 二人の少女を想う士郎の思考を、澄んだ声が遮った。雪が積もった闇夜の空気のように澄んだ声。まだ聞き慣れない、だが己が剣であると誓ってくれた少女の声を聞き違えるはずもない。
「……セイバーか」
「どうしたの? もしかして、何かあったとか……」
「あ……いや、ちょっと皆の様子を見ておこうかと思ってさ。セイバーはアーチャーについてるんだっけ。具合はどうなんだ?」
「……うん。魔力を奪われただけだから、今はもう随分落ち着いてるよ。万全とは言えないけど……」
「……そうか」
 セイバーの落ち着いた表情を見るに、それは本当なのだろう。
 とは言え、アーチャーをそんな状態に追いやったのが桜であると言う事実を思い、士郎はまた表情を曇らせる。
「それで、これからランサー達の様子を見に行こうと思うんです。回復魔法はそれほど練度が高くないけど、重ねてかければ効果あると思うし」
「セイバーは大丈夫なのか? ずっとみんなの看病してまわってるだろ」
「ありがとう、士郎さん。さっきまでなのはの側で休んでたし、大丈夫」
 微笑んで応えるセイバーだが、すぐに眉が八の字にゆがんでしまう。やはり弱っている親友を見るのが辛いのか、と士郎が顔に出してしまった心配と疑問を敏感に察し、セイバーは端整な顔立ちを憂いに曇らせたまま言葉を続ける。
「……ランサーが傷ついてるのは、バゼットが襲われるのを防げなかった私の責任でもあるから」
「そんな……! そんなの、セイバーが責任を感じることじゃないぞ。監督役が参加してるなんてインチキ、わかるはずないだろ。全部あの言峰って神父が悪いんじゃないか」
 全知の神ならぬ身である。何もかもを予想するなど出来るはずが無い。まして言峰は監督役であり、バゼットとは旧知の仲。裏切りや騙し討ちとは最も遠い人物とも言える。
 もっとも、今となってはそれらの要因すべてが裏切りに絶好であるとも思えてしまうが。
「うん……起こってしまった過去は変えられない。私がどんなに悔やんでも、それは絶対のこと」
 沈んだ顔から一転、静かな決意を込めた表情でセイバーは言葉を紡ぐ。
 それは、冥い笑いを浮かべた桜が口にしたのとは真逆の言葉だ。
「だから――だからこそ、これからの努力で、絶対にバゼットは助けてみせる。未来は、変えられるんだから――!」
「…………」
 一体何が、幼い彼女にこれほどの決意を抱かせるのか。
 僅かな驚き混じりに自分に向けられる士郎の視線に、セイバーは少し照れたように、
「あ――えっと、今のは義兄さんの受け売りなんだ」
 と言うが、とても借り物の言葉とは思えなかった。言葉自体は他人の物であっても、その精神を己の物としていなければ紡げない真摯な響きがあった。
 なおも注がれる驚きの視線に、セイバーは頬を染めたまま、
「じゃ、じゃあ私ランサー達の様子見てくるから……」
 ぺこりと一礼し、士郎に背を向けて小走りに行ってしまう。
「……そうだよな、過去は……変えられない」
 そんなことはとうの昔にわかっていることだ。川とも例えられるが、時の流れは絶対不変。遡ることは絶対にありえない。魔術という異能を以ってしても、それは覆せぬ事実だ。
 だが、それを超える奇跡の業――例えば、聖杯ならば。

『わたし、聖杯にお願いするんです。こんな酷い世界、なかったことにしてくださいって。聖杯ならそれが出来るって』

 脳裏に、桜の言葉が鮮やかに浮かび上がる。
 その言葉は士郎の心に打ち込まれた棘だ。
 じくじくと古傷から血が流れるように、心に打ち込まれた棘から赤い光景が漏れ出て脳を犯していく。それは、衛宮士郎の始まりの景色。
 聖杯に望めば、それを、
「……っ」
 咄嗟に強く頭を振って、幻視すら招かんとする赤い景色を振り払う。
 仮に願いが叶おうとも、その過程であの赤い地獄じみた光景が再現されると言うのなら、そんなものは選べるはずがない。
 そんな想い言い訳で棘の刺さった心を塗り固め、士郎は止まってしまった足を無理矢理一歩踏み出した。一度動き出してしまえば、惰性のように身体は動いてくれる。踏み出しはすぐに歩行という動作になった。
 皆の様子を見ようと思ったが、アーチャーは今までセイバーが看てくれていたようだし、そのセイバーはこれからランサー達の様子を見てくると言う、ならば士郎の出る幕はないだろう。とは言え、これで居間にすぐ戻ってはキャスターに呆れられるのが目に見えているので、自然と足は外へと向かっていた。
 突っ掛けを履き、玄関をくぐる。
 凛がアインツベルン城へ向かってから既に10時間以上経過していた。移動だけでもその程度かかることは一度訪れている為わかるが、それでも半日近く音沙汰ないのは不安を煽るには十分すぎる。
 まして、ライダーの力を得た桜はランサーとやりあうだけの能力を得ていたのだ。セイバーとアーチャー、二人の宝具を借り受けたとは言え、凛がどこまでやれるのかは完全に未知でもある。
「…………」
 自分達を逃すために桜に向かっていったリズというメイドの安否も気になるし、彼女の主であり、最早士郎にとって無視できない存在である少女――イリヤのことはそれ以上に気にかかる。
 そしてなによりも士郎を苛むのは、冥く嗤う桜の姿だった。
 桜とは既に数年来のつきあいがある。衛宮邸に通うようになってからは、ほとんど毎日のように顔をあわせていたと言っても過言ではない。思い返しても、記憶にあるのは控えめに、だが明るく微笑む顔がほとんどだ。
「……でも、桜は」
 城のロビーで黒衣を纏った桜が口にした言葉。
 あれほどの冥い願いを、普通の少女がどうして抱けよう。
 それだけの傷を、痛みを押し殺していたと言うのに、
「俺は……気づいて、やれなかった」
 見落としていただけで、何か救いを求めるサインを出していたのではないか。
 ぎり、と噛み締めた歯が嫌な音を立てる。
「……くそ」
 仮に気づけたとしても、三流以下の魔術師でしかない士郎に何が出来たわけでもないだろう。だがそれでも、柔らかな笑顔にただ笑い返していただけの自分が呪わしかった。
 見上げる空は士郎達が置かれている状況とは裏腹に突き抜けるような青空。思わず口からため息が漏れた。
「……ん?」
 自分が漏らしたため息に混じり、異音が耳に届く。
 その音自体は街で日常的に聞く音だ。車のブレーキ音――だが衛宮邸の庭においてその音は確かに異音だった。衛宮邸も含め、近隣は比較的大きな家ばかり。庭にいてブレーキ音が聞こえるということは、止まった車が目的としているのは衛宮邸ということになる。
 咄嗟に駆け出した士郎の目の前で衛宮邸の門扉がゆっくりと開かれていく。
「……あ」
 果たして、声を漏らしたのはどちらだったのか。
 門を開けたのは、桜だった。
 士郎から預かった衛宮邸の鍵を持ったまま、暗い驚きの表情のまま固まってしまっている。
 もっとも、固まってしまっているのは士郎も同じだ。
「ちょっと、どうしたのよ桜……って、士郎?」
 おそらくタクシーに料金を払っていたのだろう。僅かに遅れて凛も士郎の視界へと入ってくる。
「…………」
「…………」
 ぐらぐらと、頭の中が揺れているようだった。
 言うべきことも纏まっていない内に顔をあわせてしまったのだから、当然と言えば当然なのだが。
 何か言わなければ、という焦燥と、何を言うべきか、という自問が綯い交ぜになって、結局のところ結果は沈黙だ。
 同じような心境の二人だが、挙動は正反対である。士郎の視線は桜に注がれぴくりともしないが、桜の視線は士郎の顔へ向いたかと思えば直視出来ず下へ動いた次の瞬間には姉の言葉を思い出し俯かず真っ直ぐ士郎へと向けるも、長年の癖がすぐに直るわけもなく結局視線はふらふらするばかり。
 そんな二人の様子に業を煮やした凛が怒鳴りつけるより先に、なんとか士郎が口を開く。
「桜……」
 いつもとは違う、硬い呼びかけに思わず桜は身を竦ませる。
「……ご」
「士郎!」
 紡ぎかけた言葉を遮ったのは、ほとんど叫びに近い凛の声だった。
 一体何事か、と士郎が問いかけるよりも先に、大股に歩み寄った凛は士郎の腕をぐいと掴み、
「悪いけど桜、現状の説明するから士郎借りるわよ」
 言うが早いか士郎を土蔵の方へと引っ張っていってしまう。
「お、おい遠坂、俺は桜に言わなきゃいけないことが……」
「そう。アンタ、あの子に何を言うつもりだったの?」
 静かな口調。背を向けている為凛の表情は窺い知れないが、その声は鋭く、冷たい。
「何をって……」
「聞くまでもないわね。アンタは今、謝ろうとした」
「……そうだよ。だって俺は、桜があんな風に苦しんでいるなんて知らなかった。考えもしなかった。……家族だなんて言っておいて、俺は、桜のことなにもわかってなかった」
 苦い士郎の言葉。それは、士郎自身まったくそんなつもりはないにしても、凛をも傷つける鋭い刃だった。
 桜との戦いの中、己が言葉でつけられた傷を更に深く抉るような士郎の呟きに、だが凛はきっぱりと言い放った。
「そう。でももう一度よく考えてみるのね」
「え?」
 押さえ気味な口調とは裏腹に、士郎の腕を掴む凛の指は爪が食い込まんばかりに力が込められている。
「……アンタが気づけなかったのか。……それとも、あの子が気づかせなかったのかってね」
「……それ、は」
 言うまでもない。気づけなかった士郎が悪いに決まっている。そう考えるも、凛の言葉は同時に一つの可能性を示していた。
 桜は、苦しんでいることを気づかれたくなかった。痛みも苦しみも何もかも己が内に抱えたまま、一人の少女として士郎と関わるために、ひた隠しにしていた。それを気づくべきだったと考えるのは、あまりにも傲慢なのではないだろうか。
「言いたいのはそれだけ。じゃあ、わたしアーチャーにレイジングハートを返さなきゃならないから、行くわ」
 言って、万力のような力で士郎の腕を掴んでいた凛の手が離れる。
「……遠坂」
 小さく呟くが、聞こえているであろう凛は振り返るどころか足を止めもしなかった。
「……くそ、俺はなにやってるんだ……」
 凛に止められなければ、また桜を傷つけていただろう。
 だが、桜の苦しみに気づくことが出来なかった士郎に、謝ること以外の何が出来ると言うのか。だが気づくことが出来なかったという考え自体、ともすれば桜の隠したいという意思を無視した傲慢な考えであるかもしれないのだ。
「でも、だからって……!」
 気づけなかった、という後悔が消えるわけも無いが、そんな後悔もはっきり言ってしまえば、自己満足に過ぎない。
 士郎の後悔で過去が変わるはずもなく、そんなもの、気づけなかったことへの罪悪感を誤魔化すだけの行為だ。
 だからと言って、ここでこうして突っ立っていてもどうしようもない。
(とにかく桜は帰ってきたんだ。待たせるわけにも……)
 そう、思考して、
「あ」
 はたと、士郎は気づいた。――己が、言うべきことに。
 他にも色々大事な事はあるだろう。だが、なにをおいてもまず言ってやるべき言葉があった。
 小走りに門まで戻る。
「……あ」
 不安げに立ち尽くしていた桜が、びくりと身体を震わせた。
「桜っ」
 走ってきた勢いのままかけられた声に、桜の震えはさらに大きくなり、視線は士郎へ向かうことなく俯いてしまう。
「……桜」
 再度の呼びかけ。桜は俯いたままだ。
 だが、それでは駄目だ。ちゃんと顔を見て、その言葉はかけなければ。
 だから、
「――え?」
 士郎の固い掌が、桜の艶やかな髪にそっと触れる。優しい感触に思わず顔を上げた桜の瞳に映るのは、見慣れた士郎の顔だった。
「先、輩……?」
「……お帰り、桜」
 少し緊張気味の口調だが、あまりにもいつもどおりの言葉に、桜は呆然とする。
「先輩……なん、で……」
「……家族が帰ってきたら、お帰りって言って迎えるの、当たり前だろ」
 口調も、表情もいつもに比べれば固い。それでも士郎が口にしたのは、そんな当たり前の言葉だった。極力顔には出さないように努力したが、その言葉を口にするのはやはり相当の苦悶が伴う。例え桜自身が気づかれないようにふるまっていたとしても、その苦しみに気づけなかった自分がどの面を下げて家族などと呼ぶのか、そんな自嘲が付きまとう。
 だがそれで桜が納得するはずも無い。ライダーの甘言に乗り街の人々から生気を収奪し、アーチャーを傷つけたと言うのに、責められないなんて信じられなかった。
「どうして、どうして家族なんて言ってくれるんですか!? わたし、いっぱい悪いことしました、それなのに、なんで……!?」
「……どうしてもなんでも無い。藤ねえが居て、桜が居て、それで今のこの家があるんだから。前にも言ったろ、ここは俺と藤ねえと、桜の家だって」
「だからっ、わたし先輩にそんな風に言ってもらえる資格なんて……」
「桜!」
 自分自身を傷つける桜の言葉を、大声の呼びかけで遮る。
 それを言うなら家族と呼ぶ資格がないのは自分の方だ、思わずそう言ってしまいそうになるのを抑え、士郎は言葉を続ける。
「桜がどう思おうと、俺の考えは変わらないからな。桜は俺の家族だ。だから、帰ってきたらお帰りって言うし、いつまでも帰ってこないようなら見つけるまで探すぞ。それで、引きずってでも連れて帰る」
「……でも、わたし沢山の人を傷つけて……」
「……そう思うなら、桜。出来ることをしなきゃ、ダメだ」
「出来る、こと……?」
「傷つけたって後悔したって、それは誰の救いにもならないだろ。結果論かも知れないけど、まだ誰も死んでない。傷つけたという事実は消えなくても、傷は癒せるんだ」
「……それ、は」
「それは……自己満足かもしれないけど、誰かの為に、なってるだろ」
 苦い思いで言葉を紡ぎ出す。桜への言葉は、全て今の士郎に返ってくる言葉だった。こうやって桜に説教じみたことを言える立場ではないが、それは士郎の問題であって、桜には関係ないのだから。自己弁護ではないかという思いを抱えたまま、士郎は言葉を続ける。
「あとは、桜が傷つけたって事実と、どう向き合うかだ。……それがどういうことか、俺には判らないけど、疲れた時にお茶くらいは出してやれる。家族、なんだからな」
「……先、輩。わたし、この家に帰ってきて、いいんですか?」
「――帰ってきてもらわなきゃ、困る。藤ねえだって桜はどうしたんだって、暴れるだろうし」
「……はい」
 半ば泣き顔で、小さく頷いた桜はようやく一歩を踏み出した。衛宮邸の土を踏み、
「……ただいま帰りました、先輩」
 涙声の言葉に士郎は頷いて応え、
「疲れたろ。お茶でも、淹れるよ」
 そんな風に、なんでもないように言って、いつもどおりに先に玄関へ向かう。
 離れていく士郎の背中を見ながら、桜の心には愛し慕う二人から言われた言葉が反響していた。

『これからいくらでも償えるのよ、アンタは。その償いから逃げるってことは、誰かを傷つけて、辛い目に遭わせて、それをよしとするってことよ!?』
『……そう思うなら、桜。出来ることをしなきゃ、ダメだ』

「償い……わたしに、出来ること」
 生気を奪ってしまった街の人々の為に出来ることと言えば、病院かどこかでボランティアだろうか。社交的とは言えない桜だけに思わず尻込みしてしまいそうになるが、自分がしでかしたことを考えればそんな甘っちょろいことを言っているわけにもいかない。
「わたしに、出来ること」
 再度呟く。
 元々自己評価の低い桜だが、実際これといって何が出来るわけではない。多少人より家事が得意な程度で、その家事にしても桜より達者な人間はそれこそいくらでもいるだろう。
「…………」
 玄関を潜り、いつものように靴を脱いでスリッパを履き、廊下を進む。その間にも桜の思考は己に出来ることを探し続けていた。
 街の人々に対してはともかく、直接魔力を奪ってしまったアーチャーにどう詫びればいいものか。
「わたしに……出来ること」
 ありとあらゆる意味で力を持たない、最早マスターでもない桜に、何が出来るのか。
 魔力を奪ってしまったアーチャーに、馬鹿げた行いを止めるため尽力してくれた凛や、力を貸してくれたというセイバー、そしていまだに自分を家族と呼んでくれる士郎に、どうやって報いればいいのか。
「……力があれば」
 莫大な力の裏付けさえあれば、サーヴァントにすら通じる術が放てることは実証済みなのだ。そんな力があれば、戦いに乗ってしまった自分とは違い、戦いをやめさせる為に戦っている士郎達の力になれるだろうに。
「……力」
 連想するのは、ライダーの力を得ていた時に戦ったランサーの姿だった。
 幼女の見かけながら、感じたのは圧倒的なパワー。いくつかの術式も見たが、それ以上に印象に残るのは単純かつ絶大な魔力と身体能力だ。
「あの、力があれば……」
 ふらりと、桜の足は居間の前で止まることなく、動き続けた。

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